光のエントロピーに関する考察
はじめに
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論文概要(要旨)
序論
第1章:エネルギー・エントロピー
  1-1 環境問題について
  1-2 エネルギーについて
  1-3 エントロピーについて
第2章:エントロピーの定義について
第3章:光のエントロピー
第4章:光のエントロピーの応用
まとめ
Appendix
 A 量子力学とエントロピーの定義
 B 自由粒子のエントロピー
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論文概要

  環境問題やエネルギー問題を考える際、より大局的かつ原理的な見方をするためには、エントロピーの概念を用いることが有効である。しかしエントロピーの概念は、安易なアナロジーを含め、誤って捉えられているケースも多く、これを避けるためにはその定義や意味を深く理解し、整理することが必要であろう。なかでも太陽から届く光のエントロピーについては統一した見解がほとんど存在していないという現状であり、ここで改めて思考を整理することが求められているように思う。本論はエントロピーの概念の整理から出発し、光のエントロピーをどのように考えていけばよいか、その指針を与えるものとして企図されている。
  統計力学において、エントロピーは状態数Wを用いて と定義されるが、これを厳密に適用できるのは定常状態にある孤立系に対してのみであり、熱力学における定義と必ずしも整合性がある訳ではない。エネルギーの流れに対応するようなエントロピーの流れを考えるためには、その概念を再構築する必要性があり、一つの試みとしてGibbsの定義したエントロピーを用いることを提案する。この定義において、エントロピーは着目する系の量子状態の実現確率と関係づけられており、定常状態という一つの極限において統計力学的なエントロピーと一致する。こうしたアプローチはフラックスとしての光のエントロピーを考えるための有効な道具立てとなる。
  太陽から届く光のエントロピーを考えるために、まず孤立系における熱輻射のエントロピーを考える。これは光子がボース粒子であることから導き出すことができる。この結果、光のエントロピーはエネルギーと同様に周波数依存性、つまりスペクトルをもつという重要な帰結が導かれる。より一般的な光のエントロピーの表式は、Gibbsの定義に従って求めることができる。この場合、エントロピーは着目する光子集団のもつ運動量の分布に密接に関係しており、理想的な黒体から等方的に放出されている場合のように境界条件が明確であれば、実際にその値を計算することができる。このような基礎付けを行うことで、熱力学的な描像と量子力学的な描像を乖離させることなく、光のエントロピーを考えることが可能になる。
  地球温暖化の問題を考えるときには輻射の収支が非常に重要な役割を担う。これまでは光のエントロピーというものが厳密に考えられたことがほとんどなかったため、一般にはエネルギーの収支のみが考えられてきたわけだが、例えば地球の温度を議論する様な場合に、出入りするエネルギーの「量」だけを考えるのでは不十分だという感は免れない。エネルギーの「質」を表すエントロピーに関する考察を加えることで初めて原理的な捉え方をできるのではあるまいか。本論文中でこの問題に関する考察を試みた結果、地球の温度はその内部でのエントロピー増大と密接に関係していることを指摘するに至った。
  また論文の最後では応用例として、光合成などの光化学反応のエントロピー収支に関する簡単な考察を行った。この他にも本来光のエントロピーを考慮すべき場面は幾つもあり、今後より厳密な理論の確立が求められると同時に、ここでの着想が私達の生活の実際的な局面に応用されることを期待したい。